今、産科医療は崖っぷちに立っています。産科医の数が足らないため、産科を休止する施設は後を絶ちません。
崖っぷちに立っているのは、産科だけではありません。新生児科・小児科・麻酔科・救急・僻地医療を担う医師が足りません。最近では、内科や外科においても、医師の欠員が充足できない事態が発生しています。
施設内の医師数が減れば、残る医師の負担が増え、激務に耐えられず離職の結果、さらに担い手が減るという悪循環に陥ります。地方の自治体病院を中心に事態は深刻さを深めています。
経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、日本では人口あたりの医師数、GDPに占める医療費が加盟国平均より低いことがわかっています。医師数と医療費抑制の国策が現在の状況の根本にあります。
自然なお産は手間がかかります。けれども、産科医も助産師も人手不足である現在、自然なお産のできる施設どころか、自動車で1時間以内に分娩のできる施設のない地域も存在します。
産科医が減っている原因は、昼夜を問わぬ激務と増加する医療訴訟であると言われます。それも一因でしょうが、そればかりではありません。
診療の現場にあって、一部の患者さんの要求が理不尽なまでに膨張していることを実感します。モンスター・ペイシェントという言葉にもうなずきます。医療は有限な公共財です。患者が消費者的な姿勢で医療を浪費すれば、枯渇してしまうでしょう。逆に大切な公共財との意識をもって受診していただければ、そのことが医療を支えます。
たとえば、日中から具合が悪いのに、夜中になって受診する人がいます。端的な例では、妊娠24週まで医療機関に未受診かつ前日から性器出血していた妊婦が、真夜中に買いものに出かけたスーパーで救急車を呼び、受け入れ先探しに手間取った事件が報道されたばかりです。まるで医療のみに非があるかのような報道に、深いため息をついた産科医は少なくないはずです。
産む人と医療者が、お互いに節度と感謝をもち、対等で温かな信頼関係を築き、お産に向きあい、新しいいのちを迎える、私はそれを願っています。
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