明日香医院
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母性は育つもの、はぐくむもの
愛の種類のうち、もつとも根元的で古く、また深くて大きなものは、母親の子どもへ愛ではなかろうか。

かつて地球化学の研究者をしていた私は、子どもを産んでおっぱいで育てた体験から、医科大学に再入学し、産科医となった。私目身のお産に疑問が残り、考えたあげく、シンプルだけれど、現代では困難になってしまったこと、つまり、産むちからと生まれるちからそのままに、あたりまえに産んであたりまえに育てることを援助したいと考えたからである。

2年前に勤務医を辞め、自宅出産介助を専門として開業した。さらにこの夏、杉並区高井戸に小さな「お産の家」を作り、そこでお産を始めた。

独立後65人の赤ちゃんが生まれた。好娠中の体重管理と運動を徹底することで、帝王切開や会陰切開は不要であった。そして、産む人と家族、赤ちゃんたちから本当にたくさんのことを教えられ、学んだ。

たとえば、子どもをかわいがるちからの源、つまり母性愛の源についてである。子どもをかわいがるちからは、母となる女の人に生まれながらに備わっているものではない。それは、おそらく育つものである。妊娠中とお産のとき、そしてお産後は、とても敏感なときである。その時期に周囲の人たちからこころと身体を大切にされたひと、守られたひとは、彼女の守るべき小さなひとを大切にするちからを育て、はぐくむことができるように思う。周囲の人とは彼女のパートナーや家族であり、そして私たちお産をお世話する医療者である。お産における医療者の役割は、まずお産における安全を確保することではあろうが、実は一番大切なことは、産む人を、精神的にも肉体的にも、大切にすることであるに違いない。

子どもはいくらかわいがったとて、かわいがりすぎということはないように思う。かわいがられた子どもは、ひとを愛する力をはぐくむ。愛の源はまずあたりまえに産んであたりまえに育てることから始まるのではないかと考えている。
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