明日香医院
大野明子の著作など エッセイ > お産から始まる子育て
お産から始まる子育て
自然なお産の実践をめざし、東京の片隅で、分娩台も手術室も持たない小さな診療所を開設し、助産師たちとともにお産に明け暮れるうち、8年が過ぎました。

これまでに1500人の赤ちゃんが生まれました。98%以上のお産でお腹を切る必要がなく、赤ちゃんは大好きなお母さんの身体を大切にしながら生まれてきました。そして、ひとつひとつのお産が、私にたくさんのことを教えてくれました。

なぜ、女の人は自然なお産を願い、自然なお産は、お母さんと赤ちゃんに何をもたらすのでしょう。

お産は、みずからのいのちが新しいいのちを産むという、生き物としてもっとも原初的な体験です。このとき、家族や医療者など周囲の人から大切にされている信頼感や安心感は、とても重要です。そして、みずからのちからで子どもを産む喜びは、産む人に自分の身体や女性性に対する大きな信頼感や自己肯定感を呼び起こします。これはその人の一生涯にわたり、大きな財産にもなりましょう。

そんなふうにお母さんが、安心と満足の中で自分のお産を肯定し、大きな幸福の中にあるとき、お母さんの気持ちは赤ちゃんにまっすぐ向かい、彼女が守るべき小さな人を大切にするちからになります。

母性は女の人に最初から備わっているものではなく、育つもの、はぐくむものです。子どもをかわいがるちからの源はお産にあり、そんなちからをはぐくめるようなお産をお世話することが、産科医療者の第一の使命だと思うようになりました。

医療者と産む人の間の信頼や愛情が、子どもに還ってゆく、そんなすこやかな循環を願います。愛されている子どもは、愛情のオーラを放ちます。お母さんから完全に愛されている自信は、深い自己肯定感につながると信じます。

真摯にいのちに向き合うとき、私たちが考えている以上に人は霊的存在でありお産は霊的体験であると感じています。偶然に起こることはほとんどありません。大きなちからに守られて、いのちがいのちを産み、つぎの世代につながります。お産のお世話をすることは、未来を紡ぐことです。

現代では、自然なお産を願う母子は少なくありませんが、残念ながらそれを支える人は十分だとは言えません。今後の回はそんなことについてもお話しします。
1 / 1   エッセイのトップ

copyright © 2003-2011 birth house ASUKA, All Rights Reserved.