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慈しみ苦しむ。医療者から産む人へ、そして〜
龍村: 言いかえれば、20世紀の人間の価値観ですね、楽で便利でという。そこからくる歪みが、苦しみをネガティブにとらえて、痛くもなく簡単にできれば・・・、ということになる。ある意味、20世紀の恩恵も受けているけれども、この点が人間の価値観の20世紀の落ち度であったと感じるんです。

苦というのは必ずしもネガティブなことではないと本当に思うのですよ。ガイアの出演者は、本当にみんなあんなにポジティブにものを言っているけれど、はじめから恵まれた人たちではないですよね。たいていの場合、遙かに限度を超えるような苦しみや悲しみを経験している。それを乗り越えてきている人たちだから語れる。

これから先2004年という時期に、僕たち人類がちゃんと見すえていかないといけないことは、苦しみや悲しみを正面から捉えることかもしれない。ネガティブなことがもしかしたら、僕らの成長にとってとても大切な要素かもしれないしね。映画の中でも、大野先生の言葉がありますよね、「痛いのは大切なのよね」という。

ダライ・ラマ法王は「苦しみが慈悲の心を育てる」という言い方をしますけれど、この言葉だけ聞いたらね、「せっかく楽しく生きてるのにそんなこと言って」と、思う人も多いかもしれない。またあまり苦しみ、苦しみ、とは言わないほうがいいのだろうけれど、今の時期だからこそ、言っておいたほうがいいと僕は思うのです。だから変な言葉を作っちゃったんですよ。コントラクションというのは陣痛ですよね。だけど、日本語で「慈苦(じく)」とした。たとえばお産のケースでもベストを尽くしても、赤ちゃんがだめになってしまうこともある。

大野: 妊娠中やお産の前後で赤ちゃんが亡くなってしまうとき、先天的な理由のことも、また後天的な理由のこともあります。さまざまな理由から、お腹の中で自ら生命(いのち)を絶つ子どももいるように思います。また、必死のつなぎ止めようとしても、私の指の間からすっと抜けるようにいなくなってしまう子どももいます。

また、逆もあるんです。どうしても生きたい子がいます。産科学的には絶体絶命の状態に見えても、奇跡的に助かって、生きる子どもがいるのです。だから「この子は助からない」と決めつけたりすることは、できません。私たちにできることは、ただそばにいて見守り、祈ることだけです。

産科医療者の一番大切な仕事は、お産のときずっと産む人のそばにいること、産む人が大切にされることだと思います。お産のとき、産む人はとても繊細で傷つきやすいけれど、同時に強くもなれる。お産のとき大切にされることが、生まれてくる生命をかわいがる力の源になると思います。

私たちが妊婦さんにかける愛情が、お母さんが子どもにかける愛情へと巡っていくと思っています。それは決して自分の子どもだけがよければよいというエゴイスティックな愛情ではなくて、自分の子どもをかわいいと思う気持ちが地平線のように広がって、他の子どもたちへの愛情に繋がる。世代を越えて、未来へ繋がる、そんな愛情であってほしいと願っています。

龍村: 今回の映画のテーマは、すべての存在は繋がっているということ。普通繋がっている存在だけを見ちゃうけれど、本当に大切なのは繋げている何か。それが全体としてダイナミックに機能したときに生命が救われる。これはガイアの一番大きな願いでもあります。
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