明日香医院
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自然なお産のから学ぶ
明日香医院院長(産婦人科医) 大野 明子

「妊娠できる女のひとは、自分の力で産めるはず。お産は本来自然なものであり、子どもは母乳で育つはず」という信念から、東京の片隅に小さな診療所を開き、分娩台も手術室も持たず、助産師たちとともに自然なお産と母乳哺育を追求して10年が過ぎた。この間1600人以上の赤ちゃんが生まれ、このうち、妊娠あるいは分娩経過中に、産科的な異常のため転院あるいは搬送し、結果的に帝王切開が必要であったものは2%、すなわち、98%の妊婦は経腟分娩が可能であった。また、98%の赤ちゃんが1か月健診を母乳のみで迎えることができた。

私たちの施設では、妊娠初期に明らかな異常のないロウリスクの妊婦さんをお引き受けしているため、上記の結果は当然と思われてしまうかもしれない。けれども、実際のところ、この結果にいたる道のりは、決してたやすいものではなかった。

なぜなら、この国の帝王切開率の平均は年々増加し、今や20%を超えた。また、1か月健診時の母乳率は年々減少し、45%を切ってしまった。さらに、体外受精による妊娠で生まれる子どもも年々増加し、現在では新生児全体の4%を占めるとされる。そして、日々の臨床でさまざまな産科的異常その他に直面するたび、今後、自然なお産への道は、さらに困難なものになるであろうことを予見し、暗澹とする。

ヒトが、自然界の生きものらしく、自然な環境のもと、自然に育ち、自然な暮らしをしていれば、妊娠・出産も、みずからの自然な生命力において、かなうことが多いであろう。けれども、人工的な環境で、人工的な食べものを食べ、子どものときは外遊びが少なく、長じても移動は車、建物の中ではエレベーターなど、身体を動かすことが少なく、夏は冷房で身体を冷やし、仕事ではコンピューターの画面に向かい、プライベートではゲームや携帯電話、テレビに興じるという暮らしは、自然に生きる生きもののそれではない。自然に生活していないのに、妊娠と出産だけは自然に行いたいと求めることは、ないものねだりにすぎないことに気づいてほしい。
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