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『子どもを選ばないことを選ぶ』その後

3歳の夏。春乃ちゃんはすっかりお姉さんらしくなりました
(写真:宮崎雅子)
この本を書くきっかけは、私たちの小さなお産の家で生まれたひとりの女の子への愛情です。彼女、春乃ちゃんはダウン症をもっています。

ダウン症は21番目の染色体が1本多いことによる体質で、ダウン症の子どもたちは発達がゆっくりです。ダウン症は、血清マーカー試験や羊水検査などの出生前診断の対象になっている代表的な疾患でもあります。

春乃ちゃんは3年前の早春、私の手の中に滑り出て小さな産声を上げました。家族に愛されて健やかに育ち、その後、りりしい弟、優太くんも生まれました。現在は元気に幼稚園に通い、走ったり踊ったり、おしゃべりをしたり歌ったり。ときには生意気な表情も見せてくれるほど、日々成長しています。

ダウン症をもっているからといって、春乃ちゃん自身は何の問題もないまったきいのちであり、全力でその人生を生きています。そんな子どもたちの生まれる可能性をあらかじめ奪う出生前診断は、子どもを選別することにほかならないでしょう。春乃ちゃんの成長が、そのシンプルな事実を私に教えてくれました。

そして春乃ちゃんの主治医を務めてくださっている臨床遺伝医・長谷川知子先生の協力をえて、『子どもを選ばないことを選ぶ』(メディカ出版、2003年)を世の中に送り出すことになりました。臨床遺伝の専門家でもなく、胎児診断の専門家でもない、それどころか臨床の最も末端に位置する開業産科医である私にとっては、とても勇気のいる出版でした。春乃ちゃんのまっすぐな瞳が私の決心を支えてくれたように思います。
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