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命を奏でる映画「地球交響曲第五番」
宮崎: あの日、私はカメラを回しながら、ものすごく感動していたんです。

というのは、赤ちゃんがいよいよ生まれるという瞬問に、ゆかりさんが言葉ではない……、何と表現してよいかわからないのですが、声というか、歌というか、原始の叫びのような歓喜の声をあげたんですね。その瞬間に、私は余計なものが一切ない、言葉さえもいらない世界に触れることができたような気がしたんです。

自然に、本当に自然に母親の胸のなかに赤ちゃんが抱かれている姿を見て、命の誕生という野生を感じた瞬間でもありました。

龍村: 実は、「地球交響曲」はあらゆる場面が極めて高度な編集をされている映画なんですね。観客は意識せずに見ているかもしれませんが、映像を効果的に見せる工夫や、ワンカットとワンカットの問で人が何を考えるかといったことも意図したうえでの編集がなされているんです。

ところが、あのお産のシーンだけはノーカットでした。3分間のロングワンカットは、「地球交響曲」始まって以来の稀有なできごとです。つまり、その場で現実に起きていた3分間の再現が映画のなかでとても大きな力をもっていたということなんですね。変な撮り方をしていたら、あの感動にはたどり着けなかったと思いますし、何より、私もあのシーンに手を加えることができなかったんです。

本音をいえば、私が自分の映画のなかに登場するというのは、ちょっと気恥ずかしいところもあったので、お産の最中は後ろのほうに控えていたんです。ところが、男の子が生まれるとばかり思っていたのが女の子だったということで、感動して思わず大きな声を出してしまった。そしたらカメラがぐっと私に寄ってきて(笑)。

大野: 本当は、カットしたかった(笑)。

龍村: いや、でも、あそこを切ったら絶対にあの感じにはならなかったでしょうね。私の顔が映った後、宮崎さんのカメラはゆっくりと赤ん坊の顔に近づいていって、大野先生が「そろそろ横になりましょう」と声をかける……。

大野: 胎盤が出そうでしたからね。

龍村: 実は、あのシーンはそこに流れている時間が大切な意味をもっていて、その時間には手を加えられない何かがあったんですね。

大野: 健診や院内の様子を撮影した日も、お産の当日も、とても明るくよく晴れた気持ちのよい日でした。大変珍しいことに他に入院しておられる方もなく、撮影は、あっけないほど順調に進みました。すべてが守られていると強く感じました。
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