(前略)
原著者M・オダンに関しては、以前から名前はよく耳にしていたが、著書に接することもなく見過ごしていた。それが10年以上前になると思うが、フランス人ジャーナリスト、コリーヌ・ブレさんが、水中出産というオダンに関する本を書いたついでに、その本の末尾で私のことにかなり詳しく言及し、考え方と実践に多くの共通点があるなどと述べた。恥ずかしいことだが、2、3度読んでもどこに共通点があるのか、私にはピンとこなかった。
その後、偶然イギリスに旅行する羽目になって、かけ足の旅の途中、紹介者もなかったのに、厚かましく思いつき電話1本で、彼が快く自宅で会ってくれるという幸運に恵まれた。その時はじめて彼の謦咳に接し、彼の態度や仕草を直接目で見て、彼の人格に突然深い興味を覚えた。自宅の彼は実に人間的であった。色々お互いに理解しにくい英語で話した後、帰り際に彼が無造作に本棚から抜き取って私にくれた本が、この『プライマル・ヘルス』だった。帰日するのももどかしく、数日間、何回も読み返したその時の興奮は忘れ得ない感動だった。
そのイギリス旅行のころ、私は自然分娩に夢中であった。そういう私も、その数年前までは今のほとんどの産科医が当然のこととして日常的にやっている、分娩の経過に対する不自然かつ不必要な医学的介入を疑いもさしはさまず行っていた。そのうちに段々とその気持ち悪さに嫌気がさし、逃げ出したくなり、その結果必然的に自然分娩を模索しはじめた。その実践を通じて自然分娩が産婦にとっても、われわれ産科医にとっても、いかに楽しく、すがすがしく、やりがいのあるものであるかを味わってしまったらもうやめられない。夢中になって取り組んできたが、時々頭にのしかかって苦になっていたことは、自然分娩の理論的根拠の薄弱さであった。余りにも主観的、心情的でありすぎたのだ。 |
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