明日香医院
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いのちを選ばないことを選ぶ
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生殖補助医療
いのちのつながり
それぞれのいのち
おわりに
引用文献
出版後5年を経て、出生前診断、とくに、ダウン症を妊娠前期に発見するスクリーニング検査はさらに進んでいます。羊水あるいは絨毛採取による胎児染色体検査は、約1%の確率で流産を引き起こす侵襲的な検査です。そこでまず、ダウン症児に頻度の高いさまざまな徴候を利用したスクリーニング検査を行い、あらかじめ児がダウン症である確率の高い(ハイリスク)妊婦を抽出します。たとえば、妊娠11週から13週ころ、胎児の頸部にNT(nuchal translucecy)と呼ばれる浮腫を認めることがあります。この厚さを高性能の超音波診断装置を用いて正確に計測し、ダウン症である確率を予測します。

これらの超音波による観察データと母体血清マーカーのデータを組み合わせることで、検査による発見率は上昇します。この方法によるダウン症スクリーニング検査では、全体のうち5%の妊婦をハイリスクとして抽出し、ダウン症の胎児のうち95%を発見することができます2)。特異度、感度ともに95%と、スクリーニング検査としては、すぐれています。発見の目的は中絶ですので、染色体検査による確定診断後、ほとんどが中絶されます。

英国では、2004年より全国全ての病院で、全ての妊婦を対象としてダウン症スクリーニング検査が提供されるようになり、その費用はイギリスの医療費を管轄するNational Health Service(NHS)により全額まかなわれます。また、英国では、胎児に重篤な障害がある場合には満期まで中絶が認められます。ちなみにダウン症をはじめとする染色体異常は重篤な障害と認識されています。さらに、英国での全国的スクリーニング導入の背景として、政府が検査の導入による福祉予算の削減を期待しているという分析もあります3)

英国におけるダウン症児の出生数および生産1000人あたりの出生数は1989年に764人および1.1、1993年に615人および0.9 4)、2005年には453人および0.7 5)とゆるやかに減少しています。ただし、2005年については生産数と死産数あわせて1000人あたりの数字です。また、2002年には、ダウン症児のうち妊娠中に診断されるものの割合は約41%でしたが3)、2003年から2005年には約60%に増加しました5)

日本では、まだ、国をあげて出生前スクリーニング導入の方向にはありませんが、技術は確実に存在しています。産む人に対するカウンセリングというとき、それは技術と確率の説明であることが大半です。そして、それが産む人の自己決定支援とされます。非常に大切なものを欠落したまま、自己決定権の名の下に技術とその利用が進行していく現実に、数年前より確実な怖れを感じています。
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