明日香医院
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小さな「お産の家」で、私たちがめざすもの
はじめに
産科医になったわけ
お産の家
手術室はない
おわりに
おわりに

私たちがめざすもの、そして、そのためにどんなふうに日々の診療を行なうかは、とてもはっきりしている。どこまでもどこまでも、あたりまえの手つかずのお産、産む人と生まれくるいのちの力を信じるお産、人間らしい尊厳に満ちたお産、やさしくて暖かいお産、産む人と生まれくる赤ちゃんをめいっぱい大切にするお産である。産む人が自分で産んだと思えるように、子どもが生まれたことがこころから嬉しいと思えるように、そして、赤ちゃんのことをこころからいとしく、かわいいと思えるように、そんなお世話をすることが私たちの一番の仕事である。もちろん、それ以前に現代産科医療が保証する安全を確保することはいうまでもない。

したがって日々の妊婦健診、お産やお産後のケアなどのありようも、自然に決まってくる。言葉にすれば簡単だが、妊婦さんや赤ちゃん、そのご家族が、ひとり、ひとり違うため、私たちのケアも具体的にはひとり、ひとり違ってくる。ひとり、ひとりに妊娠期間と産後を一貫し、手間ひまと愛情、それとなけなしの知恵をたっぷりとかけ、お産の安全を紡ぐ。能率や効率とは無縁だし、たくさんの数をお世話することもかなわない。それは、私自身やスタッフの生活を相当程度犠牲にする上にようやく成り立つことでもある。

お産の数が増えるにつれ、いろいろな人や家族があり、またいろいろなことが起こる。それらのすべてに、相手の立場を尊重しつつ対処する。正直なところ大変なことも多く、ときに人間不信に陥る。けれど、それ以上に人間のすばらしさ、いのちの強さを教えられる。
一生懸命の2年間の結果、産んだ人たちとの間に宝物といえるほどの絆ができた。お産をお世話したOBを中心としたグループ、「あすかネット」も活発に活動中である。やはり私にはこの仕事しかなく、一度しかない人生でこの仕事に巡り会えたことに感謝の気持ちでいっぱいになる。

このようにささやかな活動であるが、いまではお産の希望者が増え、すべてをお受けすることは不可能になってしまった。申し訳ないと思いつつも、私たちのめざす安全、お産の質を保つため、可能な数だけをお受けしている。有能なスタッフはのどから手が出るほどほしいが、それ以前に常に原点を見失うことなく、産む人を大切に、同時に私たち自身も楽しんで仕事をしてゆきたい。
もりあね助産院の嘱託医としての仕事も継続の予定である。お産の質を大切に、助産院のあるべき姿、助産院における安全確保を第一義に追求してほしいと考えている。
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