明日香医院
大野明子の著作など エッセイ > 小さな「お産の家」で、私たちがめざすもの
小さな「お産の家」で、私たちがめざすもの
はじめに
産科医になったわけ
お産の家
手術室はない
おわりに
手術室はない

「お産の家」には手術室がない。帝王切開が必要なときには、病院に搬送し、そのお力を貸していただくことになるだろう。開業以来89人の赤ちゃんが生まれたが、お陰様で帝王切開や母体搬送例ない。将来搬送の可能性はあるが、手術室を持たないのは、帝王切開手術の時には搬送すればいいと安易に考えてのことではない。

手術室を持たない理由はいくつかあるが、まずなにより私たちは、妊婦とともに妊娠中から一貫して帝王切開手術をしなくてもいいようなお産、つまり安産をめざすからである。私たちには帝王切開という選択肢はなく、安産の選択肢しかないのだという決心をしている。

また、もう一つの大きな理由は帝王切開の頻度である。妊娠中からよく努力をすれば、帝王切開の頻度は100人から200人にひとりですむ。したがって、かくも小さな施設で、滅多に起こらないことのために大きな設備と人数を備えるのは現実的な選択肢になりえない。幸い東京には大病院も多く、滅多にないような手術こそは、人数も設備も整った大病院にお願いする方がはるかに安全である。

私たちは手術室を持たないからこそ、私と相棒、それと掃除や洗濯を手伝ってくれる人という少ないスタッフで、月に数件のわずかな分娩数でもやってゆける。逆にきわめて小さな施設であるからこそ、お互いに顔の見える関係で、手間ひまかけたお産が可能である。帝王切開を前提として施設を準備するかわりに、避けられる帝王切開は徹底して避ける。どうしても必要なケースは、可能な限り早く的確に判断する。それが私たちのめざす安全である。
11 / 12

copyright © 2003-2011 birth house ASUKA, All Rights Reserved.