明日香医院
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出生前診断の問題点
化学者から産婦人科医へ
出生前診断をすすめない理由
ダウン症のあかちゃんとの出会い
出生前診断が役に立つとき
質疑応答
ダウン症のあかちゃんとの出会い

大野: ところが、私の診療所でダウン症の子どもが生まれました。2000年2月のことです。お母さんは35歳、子どもの名前は春乃といいます。勤務医のときは、あかちゃんの担当者は新生児科医で、ご両親にもお話をしてくれて、私の知らないところでコトが進みました。

いまの私は、ダウン症の子が生まれることが、その子にとっても、家族にとっても、私たちにとっても不幸なこととは思っていません。でも、当時の私は、できれば避けて通りたい、うちでは生まれないでほしいという心境でした。

春乃が生まれたとき、まず私が動揺しました。お母さんに出生前診断の話をしていませんでしたから、「どうしてわからなかったのですか」といわれると思ったのです。まずお父さんに話をしました。当時すでに、臨床遺伝医の長谷川知子先生と知りあっていました。「すぐNICU*に送ってしまいたくない、できれば手放したくない」と思いました。母子分離になる状況を避けたかったのです。2,200gくらいの小さい子でしたが、お母さんのおっぱいを直接吸うと脳の刺激になるし免疫も伝わるし、さしあたって治療の必要がなければうちにおいておきたいと。

お父さんに「うちで見ていてもいいですか」とご相談し、その日のうちに事情を察したお母さんにも話しました。お母さんは3日くらいさめざめと泣いておられました。あとで聞くと、「先生がショックを受けているのがショックだった」と。反省しました。幸い春乃は心臓の形態異常はなく、おっぱいも上手に吸えるようになりました。春乃は幸福そうで何の問題もないように見えました。もし、こんな春乃が問題だというなら、春乃を問題とする社会が問題だと思うようになりました。

北沢: 医師が「出生前診断をしましょう」といった場合、産むか産まないか、女性自身の自己決定が揺らぎますよね?

*NlCU:新生児集中治療室。早産などのため、治療の必要なあかちゃんが入院する。
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