明日香医院
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分娩形式はどのように変化するか

はじめに
お産の姿勢
お産の環境
おわりに

3. リスク管理
ところが、すべてのお産は異常となり得る危険なものと考えれば、そんなのんきなことは言っていられない。

これに関し、昨年出版された厚生省心身障害研究費による「妊産婦死亡の防止に関する研究」の報告書3) から、さまざまな事実が読みとれる。研究班は平成3、4年を調査対象として、妊産婦死亡症例の死亡原因を解明、救命の可能性の検討により、欧米に比して高い日本の妊産婦死亡率の低下をめざした。死亡に直接結びついた原因で最も多いものは出血性ショック、ついで妊娠中毒症であり、救命可能と結論された症例もそれに集中した。巻頭の総括の中に、救命のために「昼夜を問わず、十分な体制で分娩を管理することが何よりも重要」のくだりがあり、マンパワーや検査機能の不備が死亡に大きく影響していると述べている。これに従えば、すべての分娩は三次救急施設、すなわち常時複数の産科医、新生児科医に加え、麻酔科医をはじめとする他科医師の待機する施設で行われるのが最ものぞましいとの結論が導かれよう。

しかし、ひとつひとつの症例を読み、私は異なる感想を得た。明らかなリスクがありながら十分に管理されていない症例、極端な肥満のある症例に加え、プロスタグランジンとアトニンの混注に代表されるような無謀で乱暴な陣痛の誘発および促進、安易な帝王切開などの医療介入、その逆に妊婦検診を受けていない例や無介助分娩などが大半を占める。正直なところ、これほどのことをすれば、死亡することもあり得ると思う。死亡の直接原因が羊水塞栓症など救命困難と考えられるものであっても、それ以前に陣痛促進剤による医療介入などが死亡原因を誘発していることも推定された。報告書にも「産科管理や全身管理における基本的な知識を備えていれば救命し得た例も多かった」とあるが、その通りであろう。
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