明日香医院
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理想の分娩をめざして
お産で一番大切なこと
異常を認める
お産の楽しさ
理想の分娩とは
小さなお産の家
また産みたい
医療者自身が楽しむこと
異常を認める

自宅出産専業の2年を経て、東京の片隅に小さな産科診療所を構え、助産師スタッフたちと一緒に夢中の3年が過ぎました。多くの正常なお産のほかに、少なからぬ数の、それぞれがさまざまに異常なお産をも経験しました。寿命が縮む思いもしましたし、身を削られるようなつらさもありました。自然の力の大きさと厳しさを見せつけられ、同時に産科医などというものは、所詮大きな自然の前には無力であることを思い知らされました。

そして、考えます。安全の確保はもちろん大切です。産科学、周産期医学はそれを第一の目標として発展してきたことも、もちろんです。けれど、誤解を怖れずに言えば、人間が人間を産むということ、ひとつのいのちがもうひとつの新しいいのちを産むという大きな自然の中には、当然異常が含まれているはずです。人の叡智でそれを正常域に引き戻せることもありましょうが、まったくかなわず大自然の前にひれ伏さざるをえないこともありましょう。あるいは、人の愚かさ故に、より悲惨な状況を作ることさえありえます。

産科学や周産期医学がいかに高度に進化したとて、お産が人間の営みである限り、つまり、人間が生物である限り、100%の安全は決してありえません。100%の安全を追求しなければならないとする姿勢、それは安全の呪縛と言いかえられるかもしれませんが、それはお産から人間らしさを奪い、医療者と産む人の双方をさまざまな形でがんじがらめにします。
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